「たった一度、話を聞いてもらっただけだった。」
そう語る若妻は少なくない。
不倫は、特別な人だけが堕ちるものではない。
それは、ほんの少しの寂しさから始まる。
夫は優しく、家庭が壊れているわけでもない。
生活に困っているわけでもない。
それでも――
“女として見られる瞬間”が、心を揺らす。
昭和後期の午後。
子どもを送り出し、家事を終えた静かな時間。
テレビの音も消え、
部屋には時計の針の音だけが響く。
電話台の前に立ち、
受話器にそっと触れる。
かける理由はない。
用事もない。
それでも、あの声を聞きたい。
固定電話の重みは、決断の重みでもある。
鳴らない電話を待つよりも、
自分からダイヤルを回してしまいたくなる。
背徳は突然ではない。
少しの共感。
少しの承認。
少しの「わかるよ」という言葉。
その積み重ねが、境界線を曖昧にする。
若妻の不倫は衝動ではない。
孤独が形を持った瞬間に、始まるのだ。
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