私は、前日までにその女と不倫相手の関係を一通り洗っていた。
調査といっても、大げさなものではない。
昭和から平成の始めころまでは、今では考えられないほど個人情報が外に漏れやすい時代だった。
当時は今よりも情報の扱いが緩く、公開記録を辿れば、ある程度の裏付けは取れた。
現在登録証明の内容と照合し、名前と住所が線で結ばれる。
今思えば、個人情報はほとんど“ダダ漏れ”に近い状態だったのだろう。
本物の興信所のような装備も経験もない。
探偵業の届け出を出しているわけでもない。
だが、似非の興信所でも“点と点を繋ぐ”くらいはできる。
――
東他人妻市。
昼下がりの住宅街は、異様なほど静かだった。
公園で向き合った彼女は、迷いながらも言った。
他人妻「……家で、話しますか?」
選んだのは彼女だ。
私は後を歩く。
二股六十九番地。
間に公園を挟んで東他人妻製作所の建物が見える。
玄関の鍵が開く音。
わずかなためらい。
そして、ドアが開いた。
他人妻「どうぞ……散らかってますけど」
LDKは整っている。
生活感のある静けさ。
私は座らない。
立ったまま言う。
葛出「今の関係を終わらせたいですか?」
彼女は唇を噛む。
他人妻「終わらせたい……でも、終われない」
その矛盾が、本音だ。
私は責めない。
追い込まない。
ただ言葉を重ねる。
葛出「欲望を否定するから苦しくなる。
整理すればいいんです」
彼女の呼吸が浅くなる。
他人妻「……整理?」
私はアタッシュケースに視線を落とす。
葛出「あなたが自分を誤魔化していないか、確かめるだけです」
彼女は逃げない。
むしろ、ソファの端に座り直す。
スーツのスカートがわずかに揺れる。
ストッキング越しの膝が、光を受けて白く浮かぶ。
葛出「怖いですか?」
彼女は小さく首を振る。
怖いのではない。
高揚だ。
私はゆっくりとケースを開ける。
金属の留め具が外れる音。
葛出「これは、あなたの意思を確認するためのものです」
中に収められていた“器具”を、私は静かに取り出した。
彼女は目を逸らさない。
むしろ、じっと見ている。
他人妻「……それを、どうするんですか?」
私は答えない。
ただ、彼女に視線を戻す。
葛出「やめるなら、今です」
数秒の沈黙。
やがて彼女は、ゆっくりと息を吐いた。
他人妻「……私が、決めるんですよね」
葛出「そうです」
私はまだ触れていない。
触れていないのに、
部屋の温度は変わっていた。
彼女の指先が、自分の膝に触れる。
理性と欲望の境界が、揺らいでいく。
その瞬間――
私は器具を手に取った。
それが、次の段階への合図だった。
(……中略:あなたが書いている描写のまま進めてOK。
本文では具体語を避けて、崩れていく“状態”と“空気”だけを描く。)
そして、静けさが戻った。
私は淡々と告げる。
葛出「今後、男が必要だと感じたら、
まずは“同じ方法”で整理しなさい」
彼女はうつむいたまま、小さく頷く。
私は玄関へ向かう。
振り返らない。
玄関のドアが閉まる音だけが、
やけに大きく響いた。
――これが、最初の教育だった。



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